医学豆知識(2012年)

2012年12月号

長引く咳(せき)

咳は、気道に刺激が加わったときに起こる反射運動で、一般に「風邪」のときに出ます。しかし、風邪が治った後も数週間咳が続くことがあります。そんなときは「咳喘息(ぜんそく)」かもしれません。

咳喘息は、一般的な喘息と同様に気道が狭くなり、刺激に対して過敏になって咳発作が起こるものですが、喘息のような「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜいめい)や呼吸困難はなく、発熱や痰(たん)などの症状もほとんど出ません。夜中から明け方に激しい咳が出たり、寒暖の差や喫煙により咳が出やすくなるのが特徴で、のどにイガイガ感を伴うこともあります。咳喘息は、喘息の前段階ともいわれており、放置すると本格的な喘息に移行してしまうことがあります。治療には、気管支拡張薬や吸入・経口のステロイド薬を使います。また、咳喘息とよく似た症状に「アトピー咳嗽(がいそう)」があります。これらは気管支拡張薬の効果の有無で判断できます。さらに、長引く咳は百日咳や結核の可能性もありますので、放置しないで専門医を受診してください。

2012年11月号

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)

立ち仕事や長時間歩行することが多く、起床時に踵(かかと)に強い痛みがある、第一歩目がつらい、階段が降りにくい…でも、日中は痛みが軽減する傾向がある。こんな症状が数カ月続いている人はいませんか?もしかしてその症状は「足底腱膜炎」かもしれません。

主な病態は、足底腱膜が踵の骨と付着する部位での強い牽引(けんいん)力と直接の圧迫で、踵の骨に微小な外傷、変形が起こることで症状を引き起こすと考えられています。初期では踵の骨にはほとんど変化はありませんが、進行してくると骨がとげのようになる「骨棘(こつきょく)」といわれる変化がレントゲンで見られることがあります。

治療法は、一般的には痛み止めの内服と外用剤が中心となります。また、足底板といわれる装具を用いることもあります。ストレッチも有効と思われますが、進行してしまうと難治性になることがしばしばです。

踵の周辺には、ほかにもさまざまな病気がありますので、早いうちに整形外科を受診することをお勧めします。

2012年10月号

秋の体調管理にご注意

秋は、夏の疲れが出る季節です。夏場には積極的に水分補給を心掛けていても、秋になると水分摂取量が少なくなってきます。過剰な水分摂取は体に良くありませんが、秋の脱水には注意してください。「気候が涼しくなり、ビールがおいしく飲めたが痛風が出てしまった」「急に激しい腹痛や嘔吐(おうと) に見舞われ、消化器系の病院を受診したら、腎結石(けっせき)症の痛みだった」といった話もあります。

腎機能低下や尿酸値が高めの人は、尿の酸性度(尿PH)を調べたり、尿に腎臓結石の成分となるシュウ酸や尿酸の結晶成分が

混入していないかなどを調べる尿検査を受けることも大事です。

また近年は、日本の四季独特の気圧や前線の変動と異なった気象状況が多く、秋雨前線の移動などに伴う気圧変動は、動脈の緊張に影響し、循環器の疾患を悪化させることもあります。血圧の変動などのサインを見逃さず、医療機関に相談してください。

2012年9月号

秋も花粉症があるの?

時間帯によってはだんだんと過ごしやすくなってきた今日このごろ…秋も、もうすぐですね。

さて、秋にも花粉症があるのはご存じですか?代表はキク科の植物で、八尾にも河川や池の周り、公園、田んぼなどに「ブタクサ」という草がたくさん生えています。もう一つ有名なのが「ヨモギ」で、まちではあまり見かけませんが、山に行けばたくさん生えています。

秋の花粉症の特徴は、風邪と間違うことが多いことです。夏が終わると風邪が流行り、風邪だと思って薬を飲んでもなかなか治らないので病院に行く、というケースをよく聞きます。秋の花粉症自体あまり知られておらず、風邪と間違ってしまうのも無理はありません。

「鼻水が止まらない」「目がかゆい」などの症状が続けば、花粉症の可能性があるので、専門医を受診してください。

2012年8月号

感染症の皮膚疾患

梅雨は明けましたが、湿度が高い日本では、湿しっ疹しんとは異なる皮膚の症状や病気も見られます。

例えば、小児に見られやすい「とびひ」や「水いぼ」と呼ばれるものは、感染症の皮膚疾患です。

とびひは、伝染性膿のう痂か 疹しんといい、黄色ブドウ球菌による感染症で、小さな膿うみを伴う皮疹です。これは、細菌感染のため抗生剤を使った治療ができます。

水いぼは、伝染性軟属種といい、乳白色から淡紅色の隆起した光沢のあるいぼのような皮疹です。原因は伝染性軟属種ウイルスで、薬剤は用いず、いぼを除去するか、自然に消失するまで経過観察します。いずれも感染経路は接触感染であり、プールなどで感染することもあります。

これらの皮膚疾患だけでなく、感染性胃腸症の予防にもなりますので、湿度の高い時期は特に手洗いを心掛けましょう。

2012年7月号

咳のはなし

咳には、病原体や異物が体内に侵入するのを防ぐ働きがあります。風邪の症状が治ってからも咳が長引くことがありますが、4~8週間以上長引く咳を慢性咳がい嗽そう、遷延(せんえん)性咳嗽と呼びます。

原因となり得るのは、マイコプラズマや百日咳菌、結核菌などの感染症のほかに、咳ぜんそく、アレルギー性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、腫瘍性疾患などの呼吸器疾患がありますが、そのほかにも胃液の逆流が気道に刺激をもたらし咳を誘発する逆流性食道炎、心臓血管の疾病で右心不全を呈したことによる肺の静水圧に伴う咳なども原因となります。これらは咳の症状や湿・乾性、血液・喀かく痰たん検査、画像診断などによって診断します。感染症には抗生剤・抗菌剤治療、アレルギー性疾患には抗アレルギー薬など、原因によって治療は異なります。

長引く咳には季節性の病気以外にもさまざまな原因となるものがありますので、気になる人は医療機関へご相談ください。

2012年6月号

手のしびれ

「最近、夜になると手がしびれて目が覚めてしまう」「手のしびれが続くので、脳梗塞かもしれないと思い検査してみたが異常なしと言われた」「首が悪いと言われ、治療しているがあまり良くならない」…こんな症状でお困りの人は、もしかして「手根管(しゅこんかん)症候群」という病気かもしれません。

手根管症候群は一般的に女性に多く、病態は手首の所で正中(せいちゅう)神経という神経が圧迫されて起こるといわれています。主な原因は手の使い過ぎとされていますが、骨折などの外傷後や、手首にできるガングリオンと呼ばれる軟部腫瘍が原因となる場合もあります。手首の「神経伝達速度」を測定し、異常があればほぼこの病気であると診断されます。治療には、手首の安静やビタミン投与、局所注射などがありますが、経過が長い人は手術療法となります。思い当たる人は、一度整形外科にご相談ください。

2012年5月号

花粉症

皆さんもご存じだと思いますが、花粉症は樹木の花粉が人体に入ってアレルギー反応を起こし、目、鼻、皮膚などいろいろな所に炎症をもたらす病気です。

樹木の花粉はほぼ1年中飛んでいますので、花粉症はいつでも起こる可能性があります。代表的なものは、2月~3月がスギ、4月~5月がヒノキ、5月~6月がカモガヤ(イネ科)、8月~10月がブタクサ・ヨモギ(キク科)などですが、そのほかにも桜やバラなどの花粉でも花粉症は起こります。花粉症対策は、自分がどの花粉に反応しているのかを知ることが重要なポイントです。専門家に診てもらって、抗アレルギー剤やステロイド剤を上手に使うことが必要です。

しかし、何といっても大事なのは予防です。眼鏡、帽子、長袖でナイロン製の服を着用し、外から帰ったら体に付いた花粉を払って家に入る。こういった細かい対策が花粉症を乗り切る一番の方法なのです。

2012年4月号

顔が動かない~顔面神経麻痺(まひ)~

「ある朝起きてうがいをしようとしたら口から水がこぼれる」「鏡を見ると片目がちゃんと閉じられない」という症状が出た場合、顔面神経麻痺の可能性があります。顔面には、顔の筋肉の動きを司る顔面神経と、痛みや触覚を感じる三叉(さんさ)神経という神経がありますが、顔面神経麻痺は顔を動かす神経が働きにくくなる病気です。末梢性のものには、ヘルペスというウイルスが関与しているものと、ベル麻痺という特発性のものがあります。また、脳の障害で起きる中枢性のものもあります。

末梢性の場合の治療は、ステロイドの点滴投与が基本となりますが、皮膚に水疱が出るなどしてヘルペス性が疑われる場合、抗ウイルス剤も投与します。そして、自分で顔を動かす訓練なども行います。

いずれにしても、早期治療が功を奏するので、顔の動きに違和感を感じるときは、早めに耳鼻咽喉科を受診されるようお勧めします。

2012年2月号

高熱時の注意

冬の季節は空気が乾燥し、呼吸器感染症が増えてきますので、手洗い、うがい、マスクの使用(せきエチケット)を心掛けることが大切です。

また、せき、のどの痛み、鼻水、鼻づまりなどの風邪症状を伴う病気以外にも、尿路感染症(腎じん盂う 腎じん炎えん)、胆たんのう炎、腹膜炎などの消化器疾患など、急な発熱を伴う感染症もありますので注意が必要です。

細菌、ウイルス、そのほかの病原体がヒトの体内に侵入して増殖すると、これに対する生体防御反応として白血球の増加や免疫担当細胞が活性化することによって発熱が誘発されます。

39℃程度の高熱が続くと、脱水やタンパク変性など命の危険に関わる反応が生体内で見られます。定義上、38℃までは微熱と呼びますが、平熱でも個人差があり、38℃でも解熱剤や輸液治療を必要とすることもあります。

高熱を伴う症状で受診する場合、内服や注射治療によって眠気を催すこともありますので、可能であれば付き添いの人と一緒に行かれるのが望ましいでしょう。

2012年1月号

ロコモティブシンドローム

「ロコモ」と略されることもありますが、初めて耳にされる人も多いと思います。

2007年に日本整形外科学会が提唱したもので、骨・筋肉・関節などの運動器の機能低下からバランスが崩れ、歩行障害などにより要介護になるリスクが高い状態であるとされています。

以下の7つのチェック項目があり、1つでも当てはまれば可能性が高いとされています。

(1)2?s程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。(2)掃除機の使用などのやや重い仕事が常に困難である。(3)家の中でつまずいたり、滑ったりする。(4)片脚立ちで靴下が履けない。(5)階段を上がるのに手すりが必要である。(6)横断歩道を青信号のうちに渡りきれない。(7)15分ぐらい続けて歩くことができない。

これらの症状を「もう年だから…」と安易に考え、放置しておくとやがて寝たきり状態になるかもしれません。原因となる疾患もたくさんあり、治療で良くなる可能性もあります。心当たりのある人は、お近くの整形外科を受診し、相談されることをお勧めします。