医学豆知識(2017年)

2017年12月号

ADHD(注意欠如・多動性障害)

 面白そうなことがあると席を離れて歩き出す、忘れ物が多い、順番を待てない。これらはADHDによく見られる症状です。ADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状を特徴とする言動の障がいで、一般的には7歳以前に症状が現れます。知的な障がいはなくても行動に障がいが出るため、学習面で問題が生じたり、友達の中で孤立したり、いじめの対象になったりと、二次的な問題を引き起こすことがあります。
 治療として、主に「環境調整」を行います。忘れ物が多い場合、本人と一緒にリストを作るなど、苦手な面を補うための対策を立てるのです。そして、しかることはやめ、できることを褒めるようにします。
 子どもがADHDと診断されると悩む家族もいると思いますが、悪いことばかりではありません。ADHDの子どもは好奇心が旺盛で知的な水準が高く、好きなことには集中できます。また、優しく思いやりのある子も多いです。その子の良いところを見つけてあげるようにしてください。

2017年11月号

インフルエンザ

 インフルエンザウイルスは感染力が強く、いったん流行し始めると短期間で蔓まん延えんします。感染経路には、会話や咳・くしゃみなどで飛散したウイルスを吸い込む飛沫感染をはじめ、ウイルスに触れた手指を介して口や鼻、目などの粘膜から体内に入り込む接触感染があります。感染者が出始めるのは11月〜12月ごろで、翌年1月〜3月ごろにかけて増加する傾向にあるので、これからの時期は特に注意が必要です。
 症状としては38 〜40度の高熱が出て、頭痛や関節痛、筋肉痛など全身に現れることが特徴で、症状は4・5日ほど続き、約1週間で快方に向かいます。
 予防対策として、ワクチンの接種が有効です。接種すれば感染しないというわけではありませんが、重症化は防げるといわれています。接種後、免疫が働き出すまで2週間程度かかるため、早めの接種が望ましいです。高齢者や子ども、妊婦、持病がある人などは受けられないことがありますので、流行前にかかりつけ医とよく相談しましょう。

2017年10月号

慢性腰痛の原因は…!?

 整形外科を受診する患者の中で、最も多い疾患が腰痛です。痛みが3カ月以上続くと慢性腰痛という病名で呼ばれますが、その8割は原因がよく分かっていません。近年このような腰痛の中に、骨粗鬆症の前段階で起こる痛みがあるのではないかといわれています。
 骨粗鬆症の前段階では、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査をしても骨折や脊せき髄ずいの変形などがなく、痛みだけが起こる場合があるといわれています。骨粗鬆症は、腰や背中に起こることが多く、閉経後の女性に多く発症します。それは、女性ホルモンのエストロゲンが減少し、骨の細胞のバランスが崩れることが原因とされています。一般的な痛み止め(消炎鎮痛薬)でも一定の効果が得られますが、まずは骨の健康バランスを整えることが重要です。そのために、年1回は健康診断で骨密度を測定し、骨の健康状態を知ってお
くことが大切です。また、薬物療法だけでなく「運動して体を動かす」「乳製品を摂取する」「日光を浴びる」といった生活習慣も大切です。

2017年9月号

白内障の手術

白内障は、加齢により眼の水晶体が白く濁り、視力障害を起こす疾患ですが、治療薬がないだけに、手術を選択するのが最善の方法です。
 手術は白濁した水晶体を取り除き、水晶体を包む膜の中に人工の眼内レンズを入れる「眼内レンズ挿入術」が一般的です。時間は15分と短く日帰りも可能で、以前までの「炎症が起きる」「社会復帰に時間がかかる」という問題は解消されました。しかし、医者に手術を勧められても眼科手術は怖いと悩む人もいます。
どんな手術でもリスクを伴いますが、手術を先送りして視力が0.1以下になってしまうと、水晶体が硬くなりすぎて、手術が長時間になるばかりか、術後に炎症が起きることがあります。手術のタイミングは、日常生活に支障が出てくる視力(0.6以下ぐらい)が適切ですが、運転を職業とする人で仕事に支障が生じるようであれば、すぐに手術を考えましょう。
 まずは悩まず眼科医に相談し、生活スタイルを考慮した的確な時期に手術を受けるようにしましょう。

2017年8月号

難聴の最新医療

世界保健機関の調査で、有病率の高い三大疾病に挙げられている「難聴」。現在、65歳以上の約60%が物音を聞きづらいと感じ、75歳以上の約25%が生活に支障が出るほどの難聴を患っているといわれています。
 難聴は、音が伝わるところに問題がある「伝音性難聴」と、音を感じるところに問題がある「感音性難聴」の大きく2つのタイプに分けられます。
 一般的に、難聴で聞き取りに不自由がある場合は補聴器が用いられますが、最近では、耳の構造に問題があって補聴器が使用できない人を対象にした「人工聴覚器」が登場するなど、治療の選択肢が広がっています。「人工聴覚器」には「人工中ちゅう耳じ 」「人工内ない耳じ 」「骨導インプラント」と呼ばれるものがあり、それぞれ難聴
のタイプや耳の構造に応じて選択できます。
 近年の難聴に対する医療の進歩は著しく、症状に合った処置をすることが勧められています。「近ごろ耳が遠くなった」とお悩みの人、詳しくはお近くの専門医までお問合せください。

2017年7月号

健康寿命

 「体を動かさないと死亡のリスクが高くなる」、そのようなデータがあることをご存じですか?世界の全死亡者数の9.4%は「身体活動不足」が原因といわれている中、日本では、生活習慣病やロコモティブシンドロームなどを予防するための運動や生活活動の目安が示された「健康づくりのための身体活動基準」が公表されました。

 高齢になると、認知症や骨こつ粗そ鬆しょう症しょうなどになるリスクが高くなりますが、体をよく動かす人は、それらになりにくいことが分かってきました。前述した国の基準では、現在より10分長く体を動かす「プラス10」の目標や、65歳以上の人に対して「1日40分」、歩数にして「6,000歩」の運動目標が設定されています。「1 日40分」の運動と聞くと長く感じるかも知れませんが、電車に乗って通勤したり、家事をしたりするなどの日常的な活動でも大きな消費エネルギーになります。日常的な活動に加えて、少しの運動をすることで基準を達成できるので、気軽に挑戦してみましょう。

2017年6月号

爪水虫

日本の水虫患者は2500万人にも上るといわれています。水虫は、カビの一種である白はく癬せん菌が手や足、爪などに感染することで起こります。菌は必ずしも体に付着しているのではなく、プールや共同浴場など大勢
の人が裸足になる所にも存在します。菌に感染するまでの時間は48時間といわれているので、その間に洗い
流せば感染することはありません。しかし、一度感染してしまうと治療を行わないと治らないため注意が
必要です。
 その水虫にも種類があり、最も治りにくいとされているものが爪白癬です。爪白癬は、爪の中に菌が入り
込むことで、爪が厚くなったり白く濁ったりする水虫です。ほかの水虫は塗り薬を3カ月ほど使用すれば完
治しますが、爪白癬に関しては内服薬を使用する必要があります。最近では効果が認められる内服薬も登場
し、その治癒率は70 〜80%にも上っていますので、症状がある場合は、悩まずすぐに専門医を受診するよ
うにしましょう。

2017年5月号

乳がん

がんは、日本人の死因第1位であり、約3.5人に1人ががんによって亡くなっています。中でも女性に多いのが乳がんで、その患者数は国内で約9万人にも上ります。
 がんは、早期発見・治療ができれば9割は治るといわれているため、がん検診を受けることが推奨さ
れています。しかし、国が推奨するマンモグラフィによる検診は、40歳以上の女性には有用ですが、そ
れ未満の世代には有用性が確認されていません。
 したがって、乳がんの早期発見には「自己触診」を行うことが大切になってきます。異常があったと
きにすぐ気付くことができるよう、入浴中や就寝時ましょう。触診時には指の腹を広く使い、なでるように行うことが大切です。また、乳房の中央から上の、脇の下に近い所は、乳がんの発見率が最も高い部位といわれていますので、注意深く触診しましょう。

2017年4月号

ぎっくり腰

ぎっくり腰(急性腰痛症)は、誰にでも起こり得る病気です。不意のひねり動作で起きることが多く、腰
部に激痛が走ります。
 診断は、問診と診察を中心に行われ、ほかに特定すべき疾患がないことが確認できれば、安静や投薬によ
り通常数日で症状は軽くなります。
 腰痛は、腰周囲の筋力が弱いために適切な姿勢が保持できなかったり、腰周囲の筋肉に過度な負担がかか
ることが原因とされています。重い物を持ち上げるときは体に引きつけて持ち上げたり、いすに座るときは
ひざの高さがお尻の高さよりやや高くなるようにするか、ひざを組んで座るようにしたり、立ち仕事をするときは、筋肉の疲労を軽減させるために足台を使ったりするなど、日ごろから注意するようにしましょう。もし
痛みが続けば、専門医に適切な診断とアドバイスを受けましょう。

2017年3月号

春の肌荒れにご注意を

春は昼夜の気温差が大きく、体に負担がかかりやすい季節です。この気温差やそれに伴う湿度の変化は肌
にもストレスを与え、肌荒れを引き起こす原因となります。また、暖かくなることで汗をかき、そこにほこ
りや花粉などが付着すると、肌の環境はさらに悪くなります。また、春は紫外線も強くなり始めます。冬の
間、日に当たることの少なかった肌は、紫外線への抵抗力が弱まっているため注意が必要です。
 肌のトラブルを防ぐためには、まず付着した汚れを落とし、清潔に保つことが大切です。入浴時には、刺
激の弱いせっけんやシャンプーを選び、使い過ぎないようにしましょう。洗い方も、素手や木綿製のタオル
で優しく洗うようにし、ゴシゴシ洗うことは避けましょう。入浴後はタオルで押さえるようにして水気を
ふき取り、保湿剤を塗ることも大切です。
 ひどい肌荒れや花粉によるアレルギー症状を起こした際は、早めに専門医を受診し、検査や治療を行う
ようにしましょう。

2017年2月号

インフルエンザワクチン

毎年冬になると、多くの人がインフルエンザワクチンを接種するにもかかわらず、インフルエンザの流行が話題になります。そこで疑問視されるのが「ワクチンの効果」の有無です。
 ワクチンは、世界各地でインフルエンザウイルスの定点観測を行い、その年のウイルスの流行株を予測し
て作られます。その技術は年々進歩しており、予測が外れてワクチンが効かなかったという事態はほとん
ど起きていません。ある調査では、65歳以上の健常な高齢者の約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止
する効果があったとしています。しかしその一方で「効果がない」とする調査結果があるのも事実です。
 厚生労働省では、ワクチンは高齢者や乳幼児、基礎疾患を持っている人などが、入院や死亡など重篤な状
態になるのを防ぐ有効な手段であると発表しています。ワクチンは、インフルエンザの発病を100%防ぐ
わけではありませんが、感染拡大を防ぐためにも接種するようにしましょう。

2017年1月号

感染性胃腸炎

感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスに感染することで発症する胃腸炎の総称です。1年を通して発生しますが、冬はノロウイルスやロタウイルスといったウイルス性のものが流行します。感染すると、1〜2日の潜伏期間の後、腹痛や下痢、嘔吐、発熱などの症状が見られ、特に乳幼児や高齢者、疾患のある人は脱水症状を起こすなど、重症化しやすいため注意が必要です。感染経路には、ウイルスが手や食品などを介して口に入ったときに感染する経口感染と、感染者の便や吐物が乾燥して空中に舞い、ちりと一緒に吸い込むことで感染する飛沫感染があります。いずれも注意すれば予防できるので、対策※をして感染を防ぎましょう。
※ウイルスに感染しないための対策
◦手洗いを徹底する/◦マスクを着用する/◦食品はきちんと加熱する/◦調理器具などは使用後きれいに洗う/◦感染者とタオルなどの共用は避ける/◦感染者の便や吐物を処理するときは、拭き取った紙類・おむつも一緒にビニール袋などで密閉して捨てる