医学豆知識

2024年12月

熱性けいれん

熱性けいれんは、お子さんがいるご家庭では経験がある人もおられるかと思いますが、必ずしもけいれん性の動きがみられるとは限らないので、現在では「熱性発作」とも呼ばれています。主に生後6カ月~5歳ごろまでに起こり、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患です。ほかの疾患、特にてんかんと診断されているお子さんは、発熱していても熱性けいれんとは区別するほうが良いといわれています。発作が継続する場合は投薬が必要となり、主に静脈注射が行われます。最近ではロ腔内で溶ける薬も承認され、即効性が期待されます。再発は30%程度あり、再発時の解熱剤の服用は、ご家族は心配されると思いますが、改善の傾向があリそうなら使用してもさしつかえありません。余談ですが、予防接種の際、問診票に、数カ月以内の熱性けいれんの有無を問う記載があっても、当日体調が良く問題がなければ接種も可能です。

 

2024年11月

血尿

血尿とは尿に血液が混じっている状態であり、自覚症状がなく健診などで偶然に発見される顕微鏡的血尿と、下腹部痛などの自覚症状があり鮮紅色から暗赤色で現れる肉眼的血尿に分けられます。血尿が出たから腎臓が悪くなっているとは限りません。検査にはまず尿試験紙法を行い、陽性なら尿沈査法を行うことが一般的です。尿の異常の原因は腎臓、尿管、膀胱、尿道、前立腺などが一般的に考えられます。しかし、尿検査のみで診断は確定しません。次に必要なのは血液検査で、第一に腎臓機能を評価します。経過観察中に急に腎臓機能が低下するようならすぐに専門医に診てもらうこととなります。また、検査のたびに血尿が存在するのに腎機能が変わらない場合は、経過観察することが多く、他の部位からの出血を疑い、超音波検査やCT検査などが有用な場合があります。60歳以上では無症状でも血尿で癌が見つかる場合もあります。

2024年10月

生活習慣病と睡眠障害

糖尿病や高血圧症に代表される生活習慣病の人は、睡眠障害の合併が多いとされています。睡眠障害は生舌習慣病の発生リスクを増大させ、また反対に生活習慣病の患者さんは睡眠障害が悪化する傾向があり、この両方の関係が両方の合併をさらに増やす結果となっています。アメリカの研究では5時間未満の短時問睡眠は、7、8時間の睡眠と比較して高血圧の発症が1.6倍多く、糖尿病発症リスクも3倍多いという結果になっています。このような状況から修正可能な生活習慣因子に睡眠が追加され睡眠の重要性が高まっています。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、わが国においても小学生9 ~ 12 時間、中高生8 ~ 10時間、成人6時間、高齢者は8 時間を目安に睡眠をとることが奨励されています。最近はスマートフォンのアプリなどでも自分の睡眠状態がわかるようにもなっています。睡眠の重要性を十分に認識することが大切です。

2024年9月

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

平成25年1月ごろに日本でも流行し、発症する原因がダニによるものが大部分を占める病気です。ダニは乾燥条件には弱いため3月~10月にかけて活動するといわれ、この病気も同時期に発生数が増えると考えられます。主に西日本が流行地となり、毎年約100人程度の患者が確認され、拡大傾向にあり、また致死率は25%を超える恐ろしい病気です。この病気のウイルスに感染したダニに刺されると発症し、症状は発熱や全身倦怠感、下痢などの消化器症状がみられます。意識障害がみられると予後が悪いとされています。治療は抗インフルエンザウイルス薬が有効と考えられていますが、8月1日現在、保険適応はあリません。自然界ではダニや蚊といった生き物が感染を媒介する病気が数多くあります。感染予防は困難と思われますが、ワクチンや薬物加療の開発が望まれます。

2024年8月

気象と体調

降雨、台風など気圧の変化や寒暖差などの気象状況によって心身に不調をきたす人は多いと思います。近年は「気象病」とも言われ専門外来もあります。主な症状は頭痛ですが、他にも関節痛やめまい、耳鳴リ、動悸、吐き気、古傷・手術痕が痛む、気分の落込みといった症状もあります。気象病には確定的な治療薬というものはありませんが、最近は天気予報のツールが多くあり、天候を予測することが簡便になってきました。これらを活用して「発症を予測」し、症状の「予兆時」に対策を始め、「予防」をするのが治療ともいえます。薬治療の例として、痛みには鎮痛薬、気分障害には抗うつ薬などを適宜使用しますが、天候と関連のある頭痛はめまいを伴うことも多く、予兆が起これば早めに抗めまい薬を服用することにより、その後の痛みに予防効果があったとされています。気象病の経験のある人は予兆時からの対策が必要です。

2024年7月

熱中症

春先から真夏日を観測する地域が多く、早い時期からの熱中症が増えています。近年で最も暑かった2018年は60万人近くが熱中症で医療機関を受診し、年齢別では65 ~ 79歳は35 %、80歳以上は23.3 %となり65歳以上が半数以上を占めています。熱中症は主に暑い環境下で激しい運動や労働を伴わない非労作性と同じ環境下で筋肉運動を継続する労作性に分けられ、症状はともに体温上昇と脱水によっておこる体の不具合です。労作性は、若年から中年にかけて圧倒的に男性が多いとされています。非労作性は高齢者に多いことが特徴で性差はほとんどありません。また労作性は数時間以内に急激に発症することが多いのに対し非労作性は数日以上かけ徐々に発症してきます。労作性は治療反応が良く、重症でなければ短時間で回復し症状も消失します。これに対し非労作性はすでに重症化していることが多く治療後の経過や見通しが良くありません。

 

2024年6月

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

あまり知られていない病名かもしれませんが、さまざまな病気と合併する肺の病気の総称です。肺気腫、慢性気管支炎などと診断され治療を受けている人も多いと思いますが、これらはCOPDに属します。診断は肺機能検査が必要ですが、現状はかかりつけ医などでこの検査をできるところは少なく、発見が遅れている可能性もあります。主な原因は喫煙ですが、それだけではなく、遺伝や肺そのものの異常、大気汚染、感染症、小児喘息などがあります。また、心臓疾患や糖尿病に多く併存しており、この病気を改善することは原疾患を改善することにも有用です。予防の第一は禁煙です。「受動喫煙の防止」「20歳未満や妊娠中の喫煙をなくす」ことも重要です。COPDは高齢者のフレイルとも関連性が高く、身体活動の低下がこの病気の予後を左右します。COPDの予防は健康寿命を延ばすために重要であり、さまざまな年代で予防していく必要があります。

2024年5月

高齢者のめまい

めまいは多くの人が経験していると思います。受診すると「様子を見ましょう」といわれたり、ビタミン剤や降圧剤を処方されるのが一般的かと思いますが、重大な病気が隠れている場合があり、注意が必要です。特に注意したいのが脳梗塞によるめまいです。ある病院によると、めまいで入院した患者の12%が脳梗塞であったというデータがあります。めまいの原因が起立性低血圧と診断された人は、頸(けい)椎(つい)の中を走行する動脈に血行不全があることが多いようです。ぐるぐると回るようなめまいで血圧が普段より異常に高くなった人は精密検査をお勧めします。首こりや肩こりが強い人もフラフラ感に伴うめまいを起こす場合があります。首の周りの筋肉の緊張が強くなり、異常な情報が脳に送られ発症するのではないかと考えられています。めまいには、原因がわからないものも多くあります。年齢のせいだと考えずきちんと検査することをお勧めします。

2024年4月

高齢者の糖尿病

生活習慣病で重要な疾患の一つである糖尿病は加齢とともに増加傾向にあり、65歳以上になると約5人に1人が疑われるとされます。高齢者の糖尿病は認知機能障害や転倒・骨折・うつなどを約2倍引き起こしやすく、その中でもアルツハイマー型認知症は1.5倍、血管性認知症は約2倍発症しやすいようです。サルコペニア、心不全、悪性腫瘍など併存する病気も多くあります。75歳以上になると4個以上併存する割合が約50%になるといわれています。治療は食事療法、運動療法、薬物療法を中心に行います。食事療法では適正なエネルギー量と十分なタンパク質、ビタミン摂取が必要で低栄養を防ぎましょう。運動療法は有酸素運動に加えてスクワットなどの筋肉トレーニング、バランス運動も効果的です。薬物療法ではいろいろな薬物がありますが、低血糖に注意が必要です。医師と十分に相談しながら最適な治療を行ってください。

2024年3月

子どもの花粉症と関連疾患

近年子どものアレルギー疾患が増加しています。中でも成人と同様に花粉症に悩む子どもも多くみられるようになりました。原因として、スギ花粉飛散量の増加だけでなく、食生活を含めた生活環境の変化、主に衛生環境も含めたライフスタイルの変化が考えられます。年齢層で見るとスギ花粉症では5 ~9歳までの約30%、10 ~19歳においては約50 %が発症しています。また通年性のアレルギー性鼻炎でみると0~4歳で約5 %が発症しているといわれています。関連した疾患に「花粉-食物アレルギー症候群」があります。バラ科の果物(リンゴ、イチゴ、サクランボなど)、野菜、大豆製品を摂取すると15分以内にロや喉にイガイガ感やかゆみの症状があらわれます。子どもが果物を食べて、ロの中がかゆいなどの訴えがあれば花粉症の有無を確認しましよう。果物のみのアレルギーと勘違いしないことか重要です

2024年2月

夜間頻尿

夜間頻尿は尿路の症状の中の畜尿症状と呼ばれるものの一つで、加齢とともに増加傾向にあり、生活の質にも大きく関与してきます。定義上は「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」とされ、比較的尿量が多ければ疑いが強くなります。尿量が少ない人は睡眠障害を疑い、ご自分の睡眠状態を確認してみましょう。眠れなくてトイレに行く回数が多い場合は、睡眠の改善を図るため内科、心療内科などに相談しましょう。残尿感や排尿痛などがある場合は、男性では前立腺肥大症、女性では過活動膀胱が疑われ、泌尿器科専門医を受診しましょう。また夜間頻尿もあり、加えて昼間にも頻尿がある場合は多尿の可能性があり、原因を調べるためすぐに専門医受診が望ましいです。そのほか糖尿病、腎機能障害、高血圧、心不全でも夜問頻尿は起こります。長く症状のある人は今一度かかりつけの医師にご相談してみてください。

2024年1月

血液検査(肝機能検査)

お酒をよく飲む人は、健康診断時の血液検査で気になる項目があるのではないでしょうか?今回は肝機能検査に代表されるAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTの3つの項目に関する豆知識です。ASTは肝臓だけでなく心臓や腎臓にも含まれており、心筋梗塞でも上昇します。肝臓では細胞内とミトコンドリアに多く含まれており、アルコールにより障害を受けると上昇します。ALTは肝臓の細胞質に多く含まれており、ALT値の上昇が見られたらまず肝臓の障害を疑ってみましょう。また、肝臓の障害はアルコールによるものとは限らないので、より精密な検査を受けましょう。γ-GTのうち、血清γ-GTは飲酒状態を反映して変動することが多く、禁酒すれば急速に低下します。2週間の禁酒で約2分の1になるといわれています。検査は定期的にきちんと受け、異常があれば原因を見つけることが最も重要です。