医学豆知識(2023年)

2023年12月

鵞足炎(がそくえん)

健康やダイエットのためランニングを始めている人も多いと思います。「鵞足」とは膝関節の内側で大腿の後面の筋肉(通常は3つ)の腱が集まっている場所のこと。ここがランニングで膝の屈伸の反復を繰り返すことで腱と膝内側の靱帯との摩擦がおこり炎症となり、痛みを引き起こすと考えられています。もちろんランニングをすれば必ず起こるというものではありませんが、準備運動不足やX脚などの下肢の異常でも起こりやすいといわれています。またレントゲン撮影をすると外骨種といわれる良性の骨腫瘍が確認され、これが原因となることもあります。これらは、膝の使い過ざで起こることが多いので治療はランニングの休止、アイシング、痛み止めの服用など保存的加療が原則です。症状が治まればストレッチを十分に行い再発防止をすることが重要です。

2023年11月

糖尿病性足病変

糖尿病の合併症はさまざまありますが、足の病変も多い合併症の一つで、下肢切断率は約1%といわれています。糖尿病性足病変の主な成因は神経障害と、血流障害です。潰瘍の発生だけでみると神経障害によるものが60%、血流障害によるものが10%、両者の混合したものが30%といわれ、神経障害によるものが多いことがわかります。神経障害では運動神経、自律神経、感覚神経がそれぞれ障害を受けます。運動神経障害では、筋肉の萎縮を引き起こし、その結果足の変形が起こり魚の目やたこを形成し、漬瘍となります。自律神経障害では発汗が減少し、乾燥肌となり皮膚の防御機能が低下し感染を引き起こしやすくなると考えられます。感覚神経障害では温度、痛み、触覚などが障害され、特にカイロなどによる低温やけどから潰瘍になることが多いようです。気づきにくい場所ではありますが、何よりも早期に治療することが大切です。

2023年10月

手掌多汗症

難しい病名に思われますが、読んで字のごとく日常生活に支障が出るほど手のひらに異常に汗をかく症状がある人です。今までは体質や緊張のせいなどとして見過ごされていたケースがほとんどでしたが、これは病気と考えるようになりました。しかし、特に原因もなく発症する人が多く、症状としては、試験や勉強しているときに汗で紙がぬれてしまう、手の汗でスマホの操作がうまくできない、などが挙げられます。平均年齢は13.8歳と若い人に多く、男性13~14歳、女性10~11歳とされています。思春期になると、学習や友人関係などにも支障が出て、深刻な問題となっていることが多いようです。今までは適応薬、治療方法がなかったのですが、最近この病気の外用薬が処方できるようになりました。今まで相談できなかった人も、これらの症状でお悩みの人は、医療機関に相談に行くことをお勧めします。

2023年9月

慢性疲労症候群

誰もが疲れたという感覚は持ったことがあるでしょう。この疲れたという感覚を「疲労」といい、自覚症状が眼に現れる人、肩こりや腰痛として現れる人などさまざまです。疲労が蓄積すると「過労」となり、最悪の場合、過労死を招くこともあります。疲労の多くは倦怠感を伴い、休息をとれば自然と回復しますが、休んでいるのに回復しない、疲労を感じるほどの労働をしていないのに感じる倦怠感を「病的な倦怠感」といい、この病的な倦怠感に慢性疲労症候群が含まれます。代表的な症状は発熱、咽頭痛、筋肉痛、関節痛、うつ病など多様で、月に数日以上、社会生活や労働に支障があり、休養を余儀なくされる原因不明の症候群とされています。治療法は、抗酸化療法(多量のビタミンC投与)、漢方薬、向精神薬投与、運動療法などがあげられます。皆さんしっかり休息がとれていますか?「病的な倦怠感」を感じたら、一度受診してみましょう。

2023年8月

ヘルパンギーナ

ヘルパンギーナは、小さなお子さんに多くみられる疾患です。一般的に夏季に流行がみられる急性の熱性疾患であり、のどの奥に特徴的な水疱(水ぶくれ)を形成します。原因となるウイルスはコクサッキーウイルスA群といわれるものが主です。突然の発熱で始まり、食欲減退、のどの痛みがあり、飲水を嫌がるお子さんも多くみられます。数日の経過で軽快することが多く、予後は良好です。感染経路は飛沫感染によるものが主ですが、便による感染もあります。治療において特効薬はなく対処療法です。予防には手洗いが大切であり、便の中にもウイルスが混入していますので小さなお子さんではおむつ交換の時にも注意が必要です。今回の流行はコロナ禍であまり外出しなかったため免疫が低下しているともいわれていますが、平均気温が18~20℃くらいになると流行し始めるともいわれていますので気を付けましょう。

2023年7月

肥満と睡眠

一般的に睡眠時間が短い(6時間未満)と体重、腹囲、体脂肪ともに増加傾向にあり、肥満になりやすいといわれています。理由がすべて解明されてはいませんが、短時間睡眠がホルモンの影響を受けることは証明されています。影響を受ける代表的なホルモンは、胃から分泌されるグレリン、脂肪組織から分泌されるレプチンがあげられます。グレリンは食欲を増進させ、レプチンは食欲を抑制させる働きがありますが、短時間睡眠ではグレリンの増加、レプチンの減少がおこり、この結果、食欲が必要以上に増加して肥満傾向になり、糖尿病のリスクも高くなると考えられています。また、短時間睡眠は睡眠時無呼吸症候群を併発することが多く、肥満になると気道が圧迫され、さらに危険性が高まります。健康的な生活を送るために、十分な睡眠を日々確保しましょう。また、不眠傾向にある場合は医療機関に相談してみましょう。

2023年6月

コレステロール

コレステロールと聞くと、体に悪い、不健康だというイメージを持つかもしれません。確かに総コレステロールの増加は狭心症や心筋梗塞などの疾患を増加させるという報告はあります。

血中コレステロールは5分の1が食事由来で、残りは肝臓で作られます。肝臓で作られたコレステロールは、リポ蛋白と呼ばれるたんぱく質として体内に取り込まれます。代表的なリポ蛋白がよく耳にする LDLやHDLと呼ばれるものです。LDLコレステロールは重量の約50%をコレステロールが占めているため、悪玉コレステロールとも呼ばれています。HDLは最も小型のリポ蛋白でHDLコレステロールが減少すれば虚血性心疾患が増加するという報告がありますが、高ければ良いというものでもありません。

コレステロールは生命の維持に必要なステロイドホルモンを作るために不可欠なものであり、決して悪者ではありません。基準値をめざしましよう。

2023年5月

アレルギー性鼻炎

この季節誰もが耳にする病名でしよう。アレルギー性鼻炎には通年性と季節性があり、通年性はダニやハウスダスト、季節性はスギやヒノキ、カモガヤなどの花粉が原因とされます。アレルギー性鼻炎の日本での有病率は50%で、もはや国民病といっても過言ではないでしよう。予防には、原因物質の除去や回避、治療は薬物療法、免疫療法、手術療法があげられます。薬物療法では抗ヒスタミン薬が代表的で、鼻づまりには鼻噴霧用ステロイドが推奨されています。最近は市販薬でも効能があることが認められています。免疫療法は原因となる物質の一部分を皮下注射や舌下から少しずつ体内に取り入れていく治療で、長期間を要しますが効果が期待できる治療法です。手術療法は、鼻腔内の粘膜をレーザー照射する治療法です。くしやみ・鼻水といった症状は、別の病気が原因であることも多いので、医師には症状や期間などを正確に伝えてください。

2023年4月

大腿骨近位部骨折

大腿骨近位部骨折とは脚の付け根の部分の骨折のことをいいます。骨こつ粗そ 鬆しょう症しょうの高齢者に多く、日常生活に大きく影響するほか、5年生存率が約50%ともいわれています。一般に骨折は治療すれば元の生活に戻れると思われがちですが、脳卒中のように突然起こり、悪くなる可能性が高いことから骨卒中と呼ばれるほどです。原因は、少しの段差や何かにつまずいてなどの転倒がもっとも多く、発生場所は屋内が約70%を占めています。コロナ禍で外出が減り家の中で過ごすことが多くなったことも原因と思われます。
 予防でもっとも大切なことは骨粗鬆症の治療です。治療は骨密度を正確に測定し、診断を受けたら内服薬の開始となることが一般的ですが、骨折の危険性が高い人は注射の治療から開始することもあります。骨密度を正確に測定したことがない人は、かかりつけ医などにぜひ相談してください。

2023年3月号

高齢者のてんかん

てんかんとは大脳の神経の機能調節障害と考えられます。てんかんは子どものころに発症するものが多いと思われがちですが、高齢になってから発症するものもあります。ある調査によると65歳以上の約1%にてんかんが発症するといわれ、認知症と似ているところが多いため、診断が遅れる場合があります。また認知症と合併することも多く、さらに診断を困難にしています。
 高齢者のてんかんの症状には、突然動作がピタリと止まる、無自覚に口元を動かす、急に怒ったり大声をあげるなどの特徴があります。そのような症状は数秒から数十秒で消失し、その間本人はほとんど記憶がないため、周りの人が気づいて受診を勧めることが大切です。
 治療は服薬が中心ですが、高齢になると腎機能の低下や嚥下障害、服薬自体を忘れる場合があるので、専門医と相談し、根気よく治療することが大切です。

2023年2月号

皮脂欠乏性皮膚炎

寒くなり空気が乾燥すると皮膚も乾燥します。これによる皮膚の炎症を皮脂欠乏性皮膚炎といいます。皮膚が乾燥することで自然免疫反応が活性化して発症すると考えられているほか、高齢になり湿疹が出やすくなることも原因に含まれます。視診でほぼ診断が可能で、特にひざから足首にかけて、また腰や背中に発症しやすく、かゆみを伴うことも多いです。
甲状腺機能低下、亜鉛不足でも確認されることがあり、場合により検査が必要となります。
 最近はライフスタイルの変化(エアコンなどの年中使用など)により発症時の年齢・季節を問わなくなってきているようです。治療は入浴後の保湿外用薬(ヘパリン類似物質や尿素を含むもの)とステロイド外用薬の併用が一般的です。
 皮脂欠乏の文字のイメージから高脂肪の食べ物を摂ればいいという考えは誤りですので、気を付けてください。

2023年1月号

パーキンソン病

パーキンソン病は脳の神経変性疾患で、運動障害が主な症状ですが、病変が広がると認知機能障害が出現します。環境要因が原因といわれていますが、約10%に遺伝性が認められています。日本には約20万人の患者がいるといわれ、50代から有病率が上昇します。症状は運動障害に加え、嗅覚障害、便秘、睡眠中の異常行動も見受けられます。治療は抗パーキンソン病薬が主で、かなり効果が期待できるといわれ、早期に診断がつけば病気の進行を遅らせる可能性もあります。予後もかなり良くなっており、車いす生活になることはほとんどありませんが、認知症の合併、転倒による骨折、嚥えん下げ 障害による肺炎などは増加傾向にあります。
 パーキンソン病は難病に指定されており、条件を満たせば医療費が助成されます。パーキンソン病と診断されたら、保健所や難病情報センターに相談してください。