医学豆知識(2016年)

2016年12月号

大人のニキビ

多くの人が10代の時に経験するであろうニキビは、皮膚の脂の分泌量が増加して毛穴に溜まり、そこに皮脂を好む「アクネ桿かん菌きん」という細菌が過剰に増えることで炎症を起こし、赤く盛り上がったり膿が溜まったりする皮膚疾患です。

ところで、これまでニキビは10代に発症する皮膚疾患だと考えられてきましたが、近年、20代・30代にも増加していることが分かっています。それは、現代人の生活リズムや食生活の変化などによるものだと考えられており、あごや口の周囲、フェイスラインにできやすいのが特徴です。

また、ニキビは治療しても治らないと考えられていましたが、現在では、患部に塗ることで角質をはがす効果のある新薬が登場しており、皮膚科で治る病気になっています。

ニキビを悪化させると跡が残る上、治療にも時間がかかることから、初期のうちに適切な治療を受けることが大切です。早めに専門医まで相談しましょう。

2016年11月号

神経障害性疼痛(とうつう)

神経障害性疼痛は、神経が傷つくことによってその支配領域の感覚に異常が起こる病気で、「触っただけで痛い」「砂利を踏んでいるようだ」などの症状が現れます。その原因はいまだに解明されていませんが、中枢機能に解明の糸口があるのではないかと注目され始めています。

この神経障害性疼痛の代表的な疾患が「帯たい状じょう疱ほう疹しん後ご神経痛」です。これは、子どものころにかかった水みず疱ぼう瘡そうのウイルスが体内に潜み、免疫機能や体力が低下した時に活動を始めることで発症するもので、水すい疱ほうが治った後も長く痛みが続くことがあります。

また、糖尿病を長期間患うことで発症する「糖尿病性神経障害」や、脊せき柱ちゅう管かん狭きょう窄さく症しょうが治った後に足が痛む症状など、これらもまた神経障害性疼痛の一種です。

痛みは体の異常を知らせるサインであり、ずっと我慢していると過敏になって慢性化しやすくなります。専門機関であるペインクリニックを早めに受診し、適切な治療を受けましょう。

2016年10月号

多汗症

「汗の量が多くて衣服に汗じみができる」「1日に何度も着替えが必要」など、汗に関する悩みで困っていませんか?日本人の7人に1人は、汗が多いことで日常生活に何らかの支障をきたしていることが分かっています。

現在、多汗症にはいろいろな治療が行われるようになっています。実際、脇の多汗症の7割は、塗り薬で良くなります。重症の場合でも、ボツリヌス療法(注射)で9割以上が改善します。効果は平均すると約半年続くので、年1回、夏の前に注射する人が多いようです。

局所性の多汗症は、脇の汗ばかりでなく手のひらや足の裏、頭部、顔面にも起こります。脇の汗以上に深刻なのは、実は手のひらの汗だといわれており、人と接する職業などで相手に不快感を与えるというのがその理由のようです。

職場や学校で、汗のために人とうまくかかわれないとお困りの人は、専門医に相談してみましょう。

2016年9月号

ニコチン依存症

世界の喫煙者数を比べてみると、最も多いのは中国で、続いてインド、インドネシア、ロシア、アメリカ、日本の順になっています。また、「禁煙したい」と思っている日本人の割合は男性35.9%・女性43.6%となっており、喫煙者の約4割はやめたくてもやめられない状況であることが分かります。

その原因の一つに「ニコチン依存症」があります。「朝起きるとすぐに吸いたくなる」「なくなるとすぐ買いに行く」「職場が禁煙になると困る」「高熱で寝込んでもタバコは吸う」など、これらのうち一つでも当てはまっているという人は、ニコチン依存症かもしれません。

ニコチン依存症は、気持ちだけで打ち勝とうとしても難しく、適切な医療のサポートを受けることが必要です。禁煙外来を開設している医療機関はたくさんありますので、禁煙したいのにできないという人は、身近な医療機関を探してみるのも方法ですね。

2016年8月号

社交不安障害

初対面の人に会ったり、大勢の前で話をするときに緊張したり不安になったりすることは、誰もが経験することですが、それが強い不安や恐怖となり、動悸がして息苦しくなったり、苦痛を感じて気分が悪くなったりするようであれば、「社交不安障害(SAD)」という病気かもしれません。

中には、子どものころには症状がなかったのに、大人になってから発症する人もいます。これまでは、幼少期に人前に出ることが苦手な人が思春期になって発症するものと考えられてきましたが、その後の研究で、大人になってから突然発症するタイプもあることが分かってきました。

不安や恐怖は、感じ方に幅があるものの誰もが感じることですので、恥ずかしいことではありません。しかし、日常生活に困難を生じるほどの強い不安や恐怖を感じる場合は、一人で悩まず、早めに心療内科や精神科の専門医に相談しましょう。

2016年7月号

飲酒時の注意点

お酒は、ストレスを和らげたり血行を良くしたりするなど、適度に飲む分には健康に良いといわれています。しかし、適量を超えてしまうと心身にさまざまな悪影響を及ぼします。

一つは急性アルコール中毒。「一気飲み」をはじめ、短時間に大量のアルコールを摂取したときに発症するケースが多く見られます。次にアルコール性の肝臓病。肝臓は自覚症状が出にくいため、日頃からお酒を飲む人は定期的に検診を受けましょう。続いてメタボリックシンドローム。高脂血症や高血糖などは、飲酒やおつまみの食べ過ぎなどで悪化します。最後にアルコール依存症。自分で飲酒のコントロールができなくなる精神疾患で、女性がかかりやすい傾向にあります。

お酒を飲む上で大切なのは、空腹時の飲酒を控え、適量※を守り、自分のペースで時間をかけて飲むことや、週に2日はお酒を飲まない「休肝日」を作ること。楽しく健康的に飲みましょうね。

※適量とは、日本酒では1合(180ml)、ビール中瓶1本(500ml)、ウイスキーはダブル、ワインは2杯といわれています。

2016年6月号

家庭血圧

日本高血圧学会が発行している『高血圧治療ガイドライン』などで最近注目されているのが、家庭で測定する「家庭血圧」です。病院や診療所で測定する「診療室血圧」は、緊張して血圧値が高くなってしまうことが多いため、ガイドラインには、診療室血圧と家庭血圧に差がある場合は、家庭血圧の数値を優先するなどが書かれています。

また、血圧は1日のうちで上がったり下がったりするため、1日の中での変動などを把握しておくことが大切です。通常、血圧は起床してから昼にかけて上昇し、夜にかけて下がっていきます。ところが、深夜になっても血圧が下がらなかったり、夜になると血圧が上がったりするなどいわゆる夜間血圧が高いタイプの人は、心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高いことが分かってきました。

高血圧は自覚症状がほとんどないため放置しがちですが、脳や心臓、腎臓に障害を起こしたりする恐ろしい疾患です。家庭で簡単に測定できる血圧計も多くありますので、ご自身でしっかりと管理しましょう。

2016年5月号

子どもと睡眠

近年、携帯電話やスマートフォンの普及により子どもたちの日常生活は情報に溢れ、また塾通いや部活動で忙しく、夜型の生活になっています。

文部科学省が平成26年11月に行った、小学生から高校生の生活習慣に関する調査報告(回答者数2万3139人)によると、就寝時間については小学生が午後11時(36.2%)、中学生が午前0時(22%)、高校生も同じく午前0時(47%)と、子どもたちの生活スタイルは夜型になっていることが分かります。また、睡眠時間について「十分でない」と回答した小学生が14.9%、中学生が24.8%、高校生が31.5%と年齢が上がるにつれて、睡眠不足を感じている子どもたちが増えています。

子どもに必要な睡眠時間は、個人差はありますが8〜10時間といわれています。きっちりと睡眠をとり、規則正しい生活を送りましょう。

2016年4月号

緑内障(りょくないしょう)

緑内障は、日本人の5%がかかっているといわれる、決して珍しくない病気です。眼圧(眼の圧力)が上がることにより視神経が圧迫されて機能しなくなり、最悪の場合、失明に至ることもあります。発症すると徐々に視野が狭くなっていきますが、周辺視野から進行していくため、なかなか自覚することができません。また、視力も末期までは低下せず、痛みもないので、まったく知らない間に進行するのが特徴です。

昔は健康診断などもあまり行われておらず、症状が出てから眼科を受診することが多かったため、「治らない病気」「失明する病気」といった恐ろしいイメージが定着していますが、最近ではさまざまな検査方法なども開発されており、早期発見できるケースが多くなりました。早期に治療をすれば、進行を防ぐこともできますので、気になる人は、ぜひ定期的に眼科を受診してください。

2016年3月号

鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)

鼻の左右の仕切り(鼻中隔)は、誰しも多少は曲がっているものです。しかし、曲がっていることで何らかの症状が出る場合は治療対象となることもあります。

症状としては鼻詰まりが一番多く、これは、凸とつ型に突き出た側の鼻び腔くうの空気の通りが悪くなることで起こります。いつも同じ側の鼻腔が詰まるという人は、鼻中隔湾曲症の疑いがあります。また、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の悪化、鼻出血にもつながります。

診断は視診だけですぐに分かりますが、治療には内視鏡検査やCT検査で鼻中隔がどのように曲がっているかを正確に把握することが大切です。この病気は元々骨の構造異常で起こるものですので、根本的治療には手術が必要です。手術を受けることができるのは、顔面の骨格が完成する16歳ごろからで、日帰りでも可能ですが、安全のため1週間程度入院するのが一般的です。食事は手術当日の夜から普通に取ることができます。術後の合併症も報告されているので、手術は信頼のおける医療機関で受けることが大切です。

2016年2月号

ロコモティブ症候群

ロコモティブ症候群(以下「ロコモ」)とは、運動器の衰えや障害によって「立つ」「歩く」などの機能が低下し、要介護状態になるリスクが高まることをいい、2007年に日本整形外科学会が提唱したものです。

骨や関節、筋肉などが衰えると、体はうまく動きません。ひどくなると、介護が必要になったり寝たきりになったりする可能性が高くなり、50代以上の半数はロコモ予備群といわれています。予防には、筋肉や関節をほぐす軽い運動やバランスの良い食事を毎日の生活に取り入れることなどが効果的です。

下記7つの項目で該当数が2個以上ある人はロコモの可能性があるので、整形外科など専門医を受診することをおすすめします。

  • 階段を上るのに手すりが必要
  • 15分続けて歩けない
  • 片足立ちで靴下が履けない
  • 布団の上げ下ろしができない
  • 2kg程度の買い物を持ち帰るのが困難
  • 家の中でつまずいたり滑ったりする
  • 横断歩道を青信号で渡りきれない

2016年1月号

認知症

超高齢社会の到来とともに、テレビや新聞などでも認知症について取り上げられることが多くなり、認知症への関心が高まりを見せていますが、まだ誤解も少なくありません。

最近では特に「アルツハイマー病」が話題になることが多いため、「認知症=アルツハイマー病」と思っている人が多くいますが、アルツハイマー病はいくつかある認知症のタイプの中の1つです。また、「認知症は治らない」と思い込んでいる人もいますが、薬や食事などによって症状が改善される場合もあり、アルツハイマー病も早くから治療を始める方が改善効果が高いことも分かってきました。早期発見のためはもちろんのこと、認知症の症状に似たほかの病気である場合もあるので、早めに専門機関を受診しましょう。

認知症に対する正しい知識を身に付け、予防や改善に必要なことを知っておきましょう。