医学豆知識(2022年)

2022年12月号

眼疾患と免疫異常

免疫異常というと血液検査で判明するものと考える人が多いと思われますが、眼底検査などの眼の検査で分かることがあります。眼は角膜、水晶体という体の中で唯一透明な組織があるところで、外からすぐに体の中が見えるところともいえます。
 多くの免疫異常疾患は虹彩や毛様体などのぶどう膜の炎症を引き起こします。また眼底の炎症以外の症状でも病気が見つかることも多く、特に自己免疫疾患のひとつである重症筋無力症は、眼がうまく開けていられない、動かしにくいといった症状が発端となることが多いです。しかしどのようにしてそのような炎症や症状が起こるのかは不明な点が多く、治療もある程度限られたものになる傾向があります。
 昔からいわれている「目は口ほどに物を言う」というのはさまざまな病気を見つけることにも当てはまると思います。少しでも異常を感じれば、お近くの医療機関を受診してください。

2022年11月号

胸郭出口症候群

 あまり聞き慣れない病名ですが、両腕を挙げたままの姿勢を継続したり、重いものを数回運ぶと両腕がしびれる、痛みが出現するなどの症状がある人は該当する可能性があります。主な原因は首からの神経の束が鎖骨と第1肋骨の間で圧迫を受ける、あるいは小さな力で頻繁に腕を引っ張られることによるとされています。圧倒的に女性に多く平均年齢は30代とされています。診断には首のレントゲン検査などが行われます。
 治療は確定的なものはありませんが、痛み止めの内服、患部の注射などの薬物療法、ホットパックやマイクロ波照射による温熱療法が挙げられます。頸部の牽引療法は症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。まれに手術療法をする場合もあります。症状が肩こり、首こりまたは五十肩などと似ているので自己診断しがちですが、思い当たる人はきちんと検査、治療することが大切です。

2022年10月号

高齢者のスポーツ

 65歳以上の人口は2019年に3589万人となり、これは総人口の28.4%で、20年後には約35%に達すると予測されています。このような背景の中「健康寿命」を伸ばしていくため、スポーツの位置づけは重要なものになってきます。
 高齢者の特徴として加齢による体力の低下、特に平衡機能の低下が著しく、40歳代でピーク時の50%、75歳を超えると20%台にまで低下するといわれています。
 高齢者に適したスポーツとしては、1つ目は大きな筋肉を使った全身の運動、2つ目は呼吸をしっかりしながら十分酸素を取り入れる運動、3つ目は筋肉の収縮と弛緩を繰り返すリズミカルな運動があげられます。これら3つの条件を満たす運動がウォーキングであり、時間にすると30 〜60分、頻度は週3〜5回が適しているといわれていますが、重要なのは無理をせず長続きさせることです。

2022年9月号

難聴・耳鳴りと認知症

 高齢化社会となり、難聴は身近な健康問題のひとつです。ある調査では70代男性で5〜6人に1人、女性では10人に1人が日常生活で支障を感じるほどの難聴があり、加齢とともにその割合は増加傾向にあります。また、60代以上の3人に1人が難聴に伴った耳鳴りの自覚もあります。
 難聴・耳鳴りは、認知症リスクに大きく関与していると世界的にも認められています。難聴があるとコミュニケーションの取りにくさから個人同士のつながりの数が低下すると考えられ、これが認知症の発症に影響すると考えられています。一方で、高齢の難聴者が補聴器を6カ月間使用したところ、聞こえにくさから生じていた家族や親族の関係の悪化が改善したとの報告があります。
 補聴器をつけることに抵抗がある人も多いと思われますが、補聴器は認知症の予防だけでなくコロナ禍の孤独化予防にもなるのではないでしょうか。

2022年8月号

発達障がいについて

 子どもの成長では、主に身体の成長を「発育」、精神や運動の成長を「発達」といい、脳において何らかの要因で発達に遅れや機能の問題を生じるものを発達障がいと呼んでいます。
 発達障がいにはさまざまな種類があり、精神発達や運動発達の問題、言語や会話の問題などがあります。発達障がいにおいては、できないことをできるようにすることより、できていることに注目してそれを伸ばすことに力を入れてあげる方がいいこともあります。また、声かけするときには短い言葉で端的に表現するようにし、「○○してはいけません」ではなく、「○○してね」とどうすればいいかを具体的に伝えたほうが本人も困ることが少なく、うまく行動をとりやすいといわれています。同じことでも言葉のかけ方で行動が変わります。
 子どもの発達に心配や不安がある場合はかかりつけ医にご相談されるといいかもしれません。

2022年7月号

痒み

 痒みは、かきたいという衝動を引き起こすような不快な感覚と定義され、皮膚表面に危険物質などが付着していることを知らせる防御反応とも考えることができます。
 痒みを起こす疾患は、大きく分けると皮膚病変があるものとないものに区別されます。あるものとしてはアトピー性皮膚炎、かぶれなどがあり、ないものとしては加齢による皮膚乾燥、糖尿病、内臓の悪性腫瘍などがあり皮膚掻そう痒よう症といわれます。
 治療は内服薬または外用薬、あるいはそれぞれの併用となります。原疾患の治療優先と考えられますがすべての患者さんがそうではなく、痒みを止めることを第一に行ってもよい場合もあります。
 また、痒みの治療にはスキンケアも大切です。保湿や汗をこまめに拭く、入浴の際にお湯の温度を少しぬるめにするなど日常生活のちょっとした心がけも大切にしましょう。

2022年6月号

子どもの近視

 子どもにおける近視はさまざまな要因が考えられますが、最近の調査や研究で分かってきたことがいくつかあります。
 まず、要因として教育環境が挙げられます。特に、勉強(作業)する距離(近業といいます)が20㎝以下であると近視を発症しやすいといわれています。そのため、作業する姿勢やいす、机の高さが大事であると思われます。
 次に、パソコンやスマートフォンなどの使用頻度・時間が挙げられます。1日に1時間以上このような機器を使用すると近視の発症率が高いとされています。
 最近の研究では屋外活動が近視に対して高い予防効果があったとされています。近視予防のために学校で1日2時間以上の屋外活動を奨励している国では、近視の児童数の減少にかなり効果があったようです。近視は進行するとごくまれですが、失明の恐れもありますのでしっかりと予防しましょう。

2022年5月号

肘 内 障

肘内障は俗に“ひじが抜けた”といわれているもので、2〜6歳くらいに発生します。抜けたといわれると脱臼したと勘違いされる人も多いですが、この時期の子どもで関節が脱臼することはまずありません。
 子どもが朝起きてきたときや、腕を引っ張ったときに突然泣き出して、腕を動かさなくなったなどの経験をお持ちのご家族も多いと思います。とにかく痛みが強いのでご家族も心配されますが、治療は手術しないで治す徒手整復でほぼ治ります。
 また治療後は特に制限もなく、薬も必要ありません。再発することはありますが、いわゆる癖になることはなく、レントゲン検査でも異常はありません。自然整復といって、病院に連れて行くときや診察を待っているときに勝手に治る場合もあります。しかし最初はかなり痛がるので必ず整形外科で診てもらいましょう。

2022年4月号

心 不 全

心不全とは、心臓の機能障害により倦怠感や息切れ、むくみなどがおこり、症状がだんだん悪くなりついには生命に影響を与える病気です。近年増加傾向にあり悪性新生物(がん)に次いで死因第2位となっています。
 予防方法は①良い生活習慣の継続、②生活習慣病の改善、③心臓の病気が認められればその治療、④発症してしまった場合は再発させない治療を行うことです。また心不全の人は複数の疾患を合併していることが多く、高血圧・脳卒中・糖尿病・貧血・うつ病などがあります。なかでも高血圧は半数以上の人が合併しているとされているため、定期的に血圧を測りましょう。
 心不全は進行性であり発症を繰り返すことで徐々に重症化する病気ですが、適切な予防で発症や進行を抑えることができます。今一度生活習慣を見直し、体の中で大切な臓器である心臓を守りましょう。

2022年3月号

低温やけど

 やけどというと、高温のものに触れたり熱い液体がかかったときなどに生じると思いがちですが、温度の低い熱源に長時間触れることで起こることがあり、これを低温やけどと呼びます。低温やけどは体温以上60℃以下の熱源によるものと定義され、2〜3月に多く発生します。すねの部分から足にかけてが多く、また高齢の女性に多い傾向があります。
 低温やけどの特徴として、受傷直後は軽いやけどと思われがちで、受傷から医療機関を受診するまでの時間が長く、重症化してから来院する人がたくさんいます。そのため治療が長期化し、なかなか治癒しないこともあります。平均の治療期間は1〜3カ月間といわれており、特に皮膚の一部が黒くなり壊死を伴っているようなものは、壊死組織を除去する外科的処置が必要となります。湯たんぽやカイロを使用するときは低温やけどに注意し、受傷したときはすぐに医療機関を受診しましょう。

2022年2月号

心房細動と抗凝固薬

心房細動とは心臓内で心室に血液を送る役割の心房が細かく震え、不規則な動きを繰り返す状態です。胸痛などの症状も引き起こしますが、最も恐ろしいのが心房の中で血液がよどみ固まりやすくなることです。これを血栓と呼びます。血栓が全身に運ばれ脳で詰まると脳梗塞を引き起こします。脳梗塞は脳血管障害の中では最も頻度が高く、寝たきり状態をはじめさまざまな生活機能の低下を引き起こします。この脳梗塞を予防する治療が抗凝固薬の服用です。
 抗凝固薬を服用すると血栓ができるのを防ぐため、脳梗塞の発症を防ぐとされています。抗凝固薬は服用してすぐに効果が出るものではなく、また実感することもありませんが毎日服用することが一番大切です。自己判断で服薬の回数を減らしたり、中止することは絶対にやめてください。また、体重や腎機能、出血傾向で服薬量が決まりますので必ず医師の指示
に従って服用してください。

2022年1月号

肥満と肥満症

肥満とはBMI:体格指数=体重(kg)÷(身長(m))²が25以上で、脂肪組織が過剰に蓄積した身体状況と定義されています。世界的に肥満の人は増加傾向で人口の約3分の1を占め、日本人では20歳以上の男性で33%、女性で22%と結果が出ています。男性は40〜50歳代、女性は60歳代でピークを迎えます。
 肥満症とは肥満に加え、減量で改善する可能性がある健康障害を持っている内臓脂肪型肥満であるとされ、いわゆる「太っている」肥満と区別する日本独自の考え方です。この中でもBMIが35以上の人は高度肥満症とされ、生活習慣病だけでなく心不全・呼吸不全・静脈血栓・睡眠時無呼吸症候群などを合併することが多く、また心理・精神的に問題を抱えている場合は多方面からの治療が必要となり、治療は当然ながら減量です。
 肥満の人はまず体重の3%、肥満症の人は5〜10%の減量を目標としましょう。