医学豆知識(2019年)

2019年12月号

冷えは万病のもと

これから寒さが厳しくなってきますが、冷え対策は万全でしょうか。体の冷えは「ちょっとした不調」と思われがちですが、実は万病のもと。がんや心疾患な
ど多くの病気の根源に冷えがあるのではないかと注目されています。
 「手足が冷たい」「肩が凝る」など、冷えの感じ方は人それぞれです。気管支ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患の人では肺に、捻挫や骨折をすると患部に冷えの症状が出るといわれています。冷えを感じたら、その部位に問題がある可能性があります。
 冷えの原因は冬の寒さやストレスなど生活環境によってさまざまなので、自分の生活に合った対処法を見つけることが大事です。起床後に1杯の白湯を飲む
ことは体の芯から温まり、効果的です。一方、冷たい飲み物は一気に体を冷やしてしまいます。腸が冷えると全身の活動が低下し、体の不調につながりやすいので、飲み物や食べ物はできるだけ胃腸を冷やさないものを選び、温かくして過ごしましょう。

2019年11月号

便失禁

便失禁は、無意識または自分の意志に反して肛門から便が漏れる症状です。65歳以上の約6~8%に便失禁があり、決して珍しい病気ではありません。
 便失禁は、我慢しきれずに便が漏れてしまう「切迫性便失禁」、気づかないうちに便が漏れる「漏出性便失禁」、両方が混在する「混合性便失禁」に大きく分けられます。その中で最も多いのは、高齢者の漏出性便失禁です。加齢によって排便に関わる肛門括約筋の機能や直腸の感覚が低下し、便意を感じにくくなることが原因です。それ以外にも、出産後や手術の後遺症など、さまざまな原因があります。
 治療はまず、便の中の水分を吸収してまとまった形にする薬の内服から始めます。便の形が安定して漏れにくくなり、またすっきりと排便できるため肛門や直腸にも残らず、症状が改善します。改善がなければ外科的治療の選択になります。
 便失禁は治療できる病気です。症状があれば、医療機関にご相談ください。

2019年10月号

痔は大きく分けると、主に痔じ 核かく(いぼ痔)・裂れっ肛こう(きれ痔)・痔じ 瘻ろう(あな痔)の3種類があります。痔核は、肛門筋が変形し、肛門の外に滑り出たもので、最も頻度の高い痔です。裂肛は、肛門上皮が傷付き裂けた状態で、女性や便秘の人に多くみられます。痔瘻は、肛門の内側と外側にトンネルのような孔ができて、腫れや痛み、膿が出たりします。
 最近の治療法として、体への負担が少ないものも多く、痔瘻の手術でも、肛門上皮を傷つけず、肛門括かつ約やく筋へのダメージを最小限にするなど、術後の痛みも少なく、治りが早い術式が行われています。
 痔は生活習慣に一因があるといわれています。便意を我慢したりトイレに長居するなどの行為は、肛門に負担がかかります。便意を感じたらトイレにすぐ行
き、5分以内に済ませることが大切です。
 肛門の診察は恥ずかしさにより、受診をためらいがちですが、自覚症状があれば早めに受診しましょう。

2019年9月号

痛風

痛風は血液中の尿酸が増え、血液内に溶けきらなかった尿酸が結晶となり、関節や腎臓に沈着し、関節炎や尿路結石、腎障がいなどを引き起こす病気です。多くの場合、足の甲や親指の付け根などに炎症が起こり、激しい痛みや赤く腫れるなどの症状が現れます。
 血液中の尿酸の量が正常範囲を超えると高尿酸血症と診断され、その状態が長く続くと痛風を引き起こします。原因として遺伝的要因や飲み過ぎ、肥満などがあげられます。尿酸は通常、体内では尿と一緒に排泄されます。しかし、多量に摂取することで、排泄されずに、高尿酸血症を引き起こす可能性があります。またアルコール飲料は、尿酸値を上昇させるため注意が必要です。
 痛風の治療には血中尿酸値を正常にコントロールすることが必要で、食生活の見直しや薬物治療などを根気よく行うことが大切です。健康診断で痛風の可能性を指摘されたときは、放っておかずに医療機関を受診しましょう。

2019年8月号

肉の食中毒

夏はバーベキューや焼き肉を楽しむ機会が増える季節ですが、腸管出血性大腸菌(O157、O111など)やカンピロバクターなどの細菌による食中毒が多く発生しており、注意が必要です。牛肉や鶏肉などに付着している細菌が体内に入ると、2日から7日ぐらいで、発熱や腹痛、下痢、吐き気などの症状が現れます。
厚生労働省では「食中毒予防の3原則」として、「(病原体を)付けない・増やさない・やっつける」を徹底するよう呼び掛けています。
 肉の食中毒を避けるためには次の4つを守って調理することが大切です。

①中心部まで火が通るよう75℃で1分以上加熱する。
② ひき肉を使った料理は特にフタをして焼くなど、中心部まで必ず火を通す。
③食べる箸とは別に生肉を扱うトングや箸を使う。
④ 乳幼児や高齢者などが食中毒になると重症化する可能性が高いため特に注意する。

2019年7月号

多汗症

 汗の量が多くてすぐに衣服に汗染みができる、1日に何回も着替えが必要…このような悩みで困っていませんか。日本人の7人に1人は汗が多いことが原因で日常生活に何らかの支障があることが分かっています。体の一部に汗が出やすい局所性多汗症は、脇だけではなく手や足の裏、頭部、顔などにも起こり、特に接客業や営業職に就く人にとって手の汗は悩みの種となることが多いようです。
 多汗症はまず塗り薬での治療が行われますが、これで約7割の人が改善します。重症の場合は、ボツリヌス療法が行われます。これはボツリヌス菌が作り出す毒素を注射することで交感神経から汗腺へ伝わる刺激を遮断して発汗を抑える療法ですが、これで9割以上の人が改善するといわれています。
 多汗症は2010年に診断の基準や治療が示されたガイドラインが作成され、2012年11月には重症の脇の多汗症に対するボツリヌス療法が保険適用になりました。悩んでいる人は一度皮膚科を受診してください。

2019年6月号

骨粗鬆症

 骨粗鬆症は国内で1000万人を超える患者がいるといわれていますが、そのうち8割を女性が占めています。年齢別でみると、50歳以上の女性の4人に1人が骨粗鬆症になっています。骨粗鬆症は、カルシウム不足により骨がスカスカになり骨折しやすくなる全身性の病気で、高齢者が大腿骨などを骨折すると、それが寝たきりに結びついたりと、極めて深刻な問題を引き起こす場合があります。そのため、早い時期から下
記の予防法で骨粗鬆症に備えましょう。
① 煮干しなどの小魚や牛乳などからバランスよくカルシウムを摂取し、魚類やきのこ類などのビタミンDを多く含む食品を一緒に摂ることで吸収率を高める。
② 毎日30分程度のウォーキングや骨を支える筋肉の強化のためにダンベル体操などの運動を行う。
③ ビタミンDは食事からだけでなく、日光浴により皮膚でも作られるため、太陽光を浴びて日光浴をする。

2019年5月号

月経前症候群

 近年、月経に伴うさまざまな病気が知られるようになりましたが、「月経前症候群(PMS)」もその1つです。PMSは、月経前の3~ 10日の間に続く精神的または身体的な症状の総称で、約50 ~ 80%の女性に発症するといわれていますが、治療している人は少ないようです。
 PMSの診断基準は、過去3回の連続した月経周期のそれぞれ前5日間に、乳房や腹部のはり、頭痛などの身体的な症状、または、抑よく鬱うつやいら立ち、不安などの精神的な症状の1つでも該当すると診断されます。
また、PMSのうち精神的な症状がより重症化したものを「月経前気分不快障害(PMDD)」といいます。
 治療には、規則正しい生活や十分な睡眠などを指導する生活改善と薬物療法があります。薬物療法では漢方薬を使うことが多く、重症の場合にはピル(経口避妊薬)や抗うつ薬などが用いられることがあります。
 気になる症状がある場合は、お気軽に婦人科で相談してください。

2019年4月号

職場うつ

職場に原因があるうつは「職場うつ」といわれ、近年増加傾向にあります。70%以上の企業で「心の病で1カ月以上休んでいる社員がいる」というデータもあり、そういった背景には「協調」よりも「競争」を重視する企業の変化があるといわれています。
 職場うつは大きく分けると「燃え尽き型」「陥没型」「喪失型」「逃亡型」の4つのタイプに分けられます。
 職場うつの治療は、再び仕事の現場に戻ることが最終目標となります。ただし、うつを発症したときと同じ職場に戻ることにこだわる必要はありません。治療方法など詳細は「社会復帰プログラム」を行っている精神科を受診してください。

「燃え尽き型」…自分自身が納得いく水準で仕事をやり遂げたいため、ついつい頑張ってしまい、疲労やストレスが限界になり発症する。
「陥没型」…上司から無理難題を押しつけられたり、理解できない理由で叱責されたりすることで心が傷つき、発症する。
「喪失型」…突然の組織変更や進めている最中の仕事の打ち切りなどで仕事への意欲がなくなり、発症する。
「逃亡型」…新しい役職などにうまく適応できず、その不適応を自分自身も認めようとしないため、その心の葛藤が原因で発症する。

2019年3月号

四十肩・五十肩

ある日突然、肩関節に痛みが走ったり、腕が思うように動かないといった症状が起きるのが「四十肩」「五十肩」です。これは肩関節の炎症が原因で、正しくは肩関節周囲炎といい、発症する年齢によって呼び方が変わります。「放っておいても半年、長くても1年すれば治る」といわれることもありますが、後遺症が残る場合もあり、そのままにしておくのは決してよくありません。
 治療には「薬物治療」「運動療法」などがあります。薬物療法では消炎鎮痛薬を内服します。痛みが強い場合はステロイド薬を患部へ注射し、痛みが和らいできた時点で運動療法に入ります。
 運動療法の基本はリラクゼーションです。例えば、深くお辞儀した姿勢から腕の力を抜いて下に垂らし腕の重みをしっかり感じます。これだけで肩関節が伸び、内側の筋肉が自然と収縮します。このようなストレッチを続けることが症状の改善につながります。気になることがあれば、専門医を受診してください。

2019年2月号

まつげエクステンション

まつげエクステンション(エクステ)とは、まつげを長く濃く見せるために行うメイクアップ技術の一つです。まつげ1本ずつに専用の接着剤で、化学繊維などでできた人工毛を付ける手法が主流で、洗顔しても落ちず、化粧の手間も省けることから若い世代を中心に人気があります。
 しかし、施術の問題により角膜に傷が付いて目に痛みを感じたり、接着剤によるアレルギー性皮膚炎でかゆみや腫れが生じるなどのトラブルも珍しくありません。
 治療には、角膜に傷が付いた場合は、感染症予防のため抗生物質の入った点眼薬や、痛みや傷の回復を促す点眼薬を、またアレルギー性の皮
膚炎には、ステロイドが含まれた軟こう薬を処方します。いずれも3~4日で治まることが多いですが、かゆみなど、違和感を感じた時は、す
ぐに眼科医を受診しましょう。

2019年1月号

ヒートショック

ヒートショックは、暖かい室内から寒い廊下やトイレに移動したり、寒い脱衣所で着替えた後に温かい湯船に浸かったりするなど、急激な温度変化によって血圧が大きく変動することで心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こす現象です。
 近年、家庭の浴室でヒートショックに関連した急死が多く発生しており、その死亡者数は推定で年間約17,000人と、交通事故の死亡者数より多くなっています。ヒートショックが関連した入浴中の事故は、気温が低下する10月ごろから増え始め、1月が最も多くなります。
 入浴中の事故を防ぐためにも、下記のようなポイントに注意しましょう。
▪入浴する前に、脱衣所や浴室を暖めましょう
▪湯船の温度は41度以下にしましょう
▪入浴する際に、家族にひと声掛けましょう
▪飲酒後はアルコールが抜けてから入浴しましょう